珍魚落雁

「スキップ・ビート!」ファンサイト★キョコたんOnly激Love派管理人による2次小説が置いてあります。

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[14]馬子にも衣装 

疾風怒濤

馬子にも衣装


 
「いやーん、可愛いー♪
 これ着たら きっと かのこさん、お人形さんのようになるわ!」

「こっちのほうが ゴージャスよ!
 王女様みたいに気品があって かのちゃんにぴったりだって!」 

「俺は このホルダーネックだな、色っぽくね?
 こう ちょっとひっぱたら 即 ぱらり…」

「もう!ハル君ったら!やらしいわね!!」

 …はいっていけない…。

 私も ママも お姉ちゃんも
 まったく その会話の中に入っていけず ぼうぜんとたたずむのみ。

「いいかげんにしなさい、おまえたち」

 椿君のお父様が やんわり 割り込んでくれる。

「お召しになるのは、かのこさんだぞ。
 ご本人に選んでいただくのが 一番だろう?」

「あ、そ、そうよね!」

「ごめん!かのちゃん!」

「おまえは どれがいいんだ?かのこ」

 ばばっと 見本写真を 目の前に並べられる。

「そうやって お前たちに見つめられてたら かのこさんも落ち着かないじゃないか。
 苗床さんご一家で 選んでいただけばいい。」

 さすが!
 社長の片腕
 専務に抜擢されただけのことはある!

 (お父様の勤める会社は 同族経営で
  一族以外の人間がその地位につくのは 奇跡なのだそうだ)

 椿氏は さっさと ご一家を 別室に連れ出してくれた。

 …はぁ~…。助かった!

「ど、どうなってるの…かのこ…!」

「椿さんから 電話が来たとき…てっきり 怒鳴りつけられると思ったんだが…」
 
「なんでか 皆さん すっごく かのこに好意的だよねぇ?」

「私が 聞きたい…」

 ほんとに なんで!?

 どう考えても
 私じゃ 椿君のグレードにふさわしくないと思うんだけど!?

「だが まあ いいじゃないか!
 安心したよ、この分なら おまえ すごく 幸せになれそうだ」

「そうよね!皆さん いいかたばかりで!」

「うんうん!美形ぞろいで 性格もいいしさ!かのこ 超ラッキーじゃん!」

 はぁ
 
 そうだ 
 うちの者は みんな ノーテンキぞろいだった!!

「ほら、かのこ!いつまでも うじうじしない!
 アンタ 椿君 好きなんでしょ?」

「…う、うん。もちろん…!」

 そうだ
 それだけは 私の中の真実

 絶対 揺るがない芯だ。

「なら もっと うれしそうな顔する!」

「そうよ!さ、ドレス 早く 選びましょう!ね?」

「花嫁のドレスが決まらないと 花婿のも選べないって 焦ってらしたからな!」

 …ふぅ…!

 仕方ない!

 乗りかけた船には もう 乗るしかない!

「これがいい!」

 ざっと見渡して、即 指差した。

「ホルターネックの?ちょっとシンプルすぎない?」

「この私が ふわふわごてごてなレースつき 似合うわけないじゃん!」

 桃ちゃんなら ともかくさ!!

「いいんじゃない?かのこの選択が 最優先よ」

「ああ。趣味がいい 洗練されたデザインだと思うぞ」

「そっか!そうだよね!
 初流クンと並ぶんだったら このくらい大人っぽくないとね!」

 ずずずずぅーん

 はぁぁ

 椿君の横に この私
 どう考えても 絶対 見劣りすると思うんだよね…

 いくら 馬子にも衣装っていってもさぁ

 元は この私だよ!?
 
 限界ってもんが あるじゃん!!!

 あああああ すっごく 気が 重いっ!!



「疾風怒濤」♪hakusyu
  ↑ 続きの[15]アップしております

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カウントダウン(side:K)【絶えずの炎 №59】 

最終章 絶えずの炎

カウントダウン(side:K)【絶えずの炎 №59】


「ふぅ~ん」

「な、なに じろじろ 見てるのよ!!」

「いや…やっぱり 似合うよな 和服。本番でも 神前式にするかな、やっぱり…。」

「…はい?」

 な、なに 言って!!

「あ、あんたね!!!」

「文金高島田より こっちのほうがいい。すごくきれいだ。」

すっと 右手で 私の綿帽子に触れる

 ぐっ!

「あ、ありがとう…」

 ちょ、調子が狂う!

「よくがんばったな…玉藻役…。きつかったろう…。」

 …!

「べ、別に…敦賀さんが ちゃんとリードしてくれたし!」

「…『リード』…ね…!」

 …?
 なんか すごく苦々しい口調??

「正直…はらはらしてた…よく 耐えたな…。」

「そんな!さ、撮影は さほど濃いシーンじゃ!」

「それじゃない…。あの…手紙読む場面だ。」

 !!!!!!

「途中…おまえが つかえてしまうか…かたまってしまうんじゃないか…って
 すごく 心配だったが…」


 ど…

「ちゃんと最後まで 『玉藻』を演じとおして…立派だった…、本当に。」

 どうして…

「おまえは 本物の役者に なってるんだな、ちゃんと。」

 …どうして わかって…!

 誰にも 気づかせなかったと 思ったのに!!

「京子ちゃん 不破君 お待たせ!スタンバイ よろしく!!」

 スタッフさんの声に ハッとした。

「さあ じゃあ さっさと 撮り終えよう!」

 すっと やつの手が 綿帽子から外れた。

「かっきり一月後には 受験だ。いいかげん 専念させてやりたいしな!」

  ここではない どこか 今ではない いつか
        僕は きっと 君に 出逢ってたはず
                還ろう 還ろう 君の いる ところへ
                   還ろう 還ろう 君は 僕の 心のふるさと

  
 ゆったりと明るく 華やかな 雅楽の調べが流れる

 緋毛戦がしかれた出雲大社の参道…
 中央の線だけは微妙に避けて(参道の真ん中は 神様の通り道だから)

  尚と肩を並べ拝殿に向かう

 道筋には エキストラのお客様方が
 居合わせた参拝客の演技で 拍手や歓声を送るやらカメラをかまえるやら…

 …完全に演技抜きで はしゃいでらっしゃるのは ご愛嬌!

 まぁ
 適当に カットしてつなげるだろうし…。

 いかにも 白無垢の花嫁姿にふさわしい表情を造りながら 歩んでいる内に拝殿に着く。

 その荘厳な雰囲気に 圧倒される。

「天照大神編は 没にする。宣伝するはずの遺跡自体が 当分 立ち入り不可だし。」

 NRのプロデューサーさんが 無念そうに言っていた。

「今、島根県で 本当に 来て頂いても 大丈夫なとこだけを 流すよ。
 まあ…ドラマで ほとんど 網羅できたけれど…ね。」

 …その疲れ果てた表情に 申し訳なさでいっぱいになる。

 ローリィ社長と さんざん もめたのだ。

 敦賀さんとショーの役所を巡って…

「このドラマを見終わったら…。」

 役を交換すべきだ!…と強硬に主張するプロデューサーさんを 社長は穏やかに諭した。

「10人中8人は…『千早がかわいそうだ。二人を結ばせたかった。』と 思うはずだ!
 CMのコンセプトと外れてないだろう?現代編で、ハッピーエンドにすればいい!」
 
「し、しかし…」

「想像してみろ…二人が役交換して演じる姿を…!君もプロだ!わかるだろ!?」

「…う”…」

 ついに プロデューサーさんは 沈黙し 社長は自分の意を通しきった!

「NRのCM…この1年の集大成は やっぱりこれしかない!」

 その分、このシーンにかけるプロデューサーさんの意気込みはそりゃもうすごかった。

 結婚式のあれこれをとりしきる神官…ぶっちゃけ ちょい役…にも すべて 結構 
 有名な俳優さんを起用している!

 ショーが 三三九度の杯 飲むシーンは とばす。

 左手が 動かせないからだ。

 この左手しばりつけて…あんな ど派手なアクションシーンも こなした…。

 こいつのプロ根性だけは 大したものだ。

 式のシーンを撮り終えて 外に出る。

 また 大勢のお客様方が 万雷の拍手と歓声で出迎えてくれた。

 すっと ショーの右手で 引き寄せられた。

 はらりと綿帽子が落ち 私の顔がさらされる。

 一段と大きな歓声と 嘆声。

 抱き寄せられるままに ショーの肩にもたれる。

 私だって プロ!
 コイツに負けてはいられない!

 にっこり 優しくいとおしそうに ほほえんでショーの顔を見つめる。

 ショーにあごをとらえられ 唇に口づけられて…も…。
 その口づけが あからさまに 深さを増していても…!

 11月半ば…初冬の陽射しは どこまでも穏やかで優しかった。

どこかじゃない ここで いつかではない 今
          僕が 君に  出逢えた その奇跡
              還ろう 還ろう 君の いる ところへ
                 還ろう 還ろう 君が 僕の 心の陽だまり

 
NR(旧称:日本鉄道)『古代に還る恋の旅路』
       カップル限定 古代の都巡り周遊パス 絶賛発売中

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大賑わいの初詣(side:R)【絶えずの炎 №58】 

最終章 絶えずの炎

大賑わいの初詣(side:R)【絶えずの炎 №58】

「エキストラの皆様 お疲れ様でした!おかげさまで『出雲物語』は、無事 クランクアップ!
これもひとえに 皆様のおかげです!!」

 まだしつこく
 上皇の衣装のままのローりィ社長(よほど気に入ったらしい)

 そのねぎらいの挨拶に お客様方から 歓呼の声があがる。

「さあ!今度は 現代編!CMに使うカットです!」

 おー!

 かなりなハードスケジュールにもかかわらず
 お客様方は 皆さん ずいぶん お元気でけっこうなことだ。

「皆様は 出雲大社にお参りにきた善男善女!初詣風景です!
 現在は11月半ばではありますが CM放映は年始の予定です。
 ぜひ!正月の華やかな雰囲気をかもしだしていただきたい!」

 おおおぉおおおおおおお!!

 ハイテンションなノリで 歓声が返ってきた。

 …ふぅ!

 出雲大社の周囲には紅白の幕が張り巡らされ
 金色の大きな竜のつくりものが 大勢の人々の手で操作され
 にぎわしくも はではでしく 鉦や太鼓 管絃の音が鳴っている。

 …どうでも
 派手なイベントにしなきゃ 気がすまないのか?!このひとは!!

 それに
 今から撮る この現代編!!

 なんで
 わざわざ こんなシーン!

 胸の中を どす黒いものが渦巻いている!

「れ、れん~」

「…なんでしょうか…社さん」

「な、なあ つ、疲れただろうし…別室でゆっくり休んで…」

「ご心配無用です 社さん。俺は まだ 若いですから!」

「で、でも こ これから撮る場面…で、できたら…見ないほうが!
…俺の胃のためにも…!

「見ます!きっちり 最後まで!
撮りが終わったら すぐ 最上さんを 連れ帰りたいですし!」


 一瞬でも 目を離せるものか!
 あいつが 何するか わかったもんじゃない!!

「う…」

 きゃあああああああ!うぉぉおおおおおおおおおおおお!

 そのとき
 すさまじい大歓声が沸き起こった。
 
「京子ちゃぁぁーーん!」「きゃー!lきれい!!」「かっ、かわいい!!」「素敵ー!!」

「うわぁ…ほんと きれいだ 京子ちゃん…!」

「玉藻は ことさら幼く見せるようなメイクだったから…ほぼすっぴんだったけど…」

「似合うよなぁ…まさしく 絶世の美女 絹乃内親王さまの現代版っ!」

「いいなぁ、不破君…ドラマでもCMでも 何度も こんな役できて…!」

「ほんと!俺が かわりたい!!」

 お客様方の歓声に混じって
 共演の俳優たちが なにやら ぼそぼそほざく声が うざったい!

 黙って 彼らの背後に立つ。

 ぴきんっと やつらが 固まった。

「あー!お、俺たちも 出番だ!」「い、いそごう!!」

 言うが早いか 三々五々 持ち場に散っていった。

「…何の罪もない俳優さんたちを 脅すなんて 紳士の名が泣きますよ、敦賀さん。」

 背にいやみな声が響く。

 …!

 不破!!

「たかが…『役』でしょう?どんなシーン演じようが…ね!」

 まっすぐに 俺の目を にらみすえてくる。

「そうだね…。せいぜい…熱演してきたらいい…。」

 真正面から にらみ返す。

「演技ででもなきゃ 生涯 経験できないんだろうから…最上さんとは…ね!」

 とたんに
 やつの表情が険しくなった。

「そのお言葉…そっくりそのまま お返ししますよ。」

 怒りを はらんだ声…。

「よかったですね。『出雲物語』…せめてドラマだけでも いい『役』ができて!」

 こ
 このやろう…!

 言い捨てて 控えの間から やつは 表に出て行く。

 きゃぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ~!!

 とたんに
 お客様から すさまじい歓声が上がった。

「千早さまーーー!!!」「尚ーー!!」

 …!?

 いち早く 生でドラマを観ていたお客様方の間では
 『千早』が すさまじい人気を獲得しているようだ…とは 聞いてはいた…が…!

「まあ そりゃそうだよな。好き放題 やりたい放題やってるおまえと違って 健気で純粋…
女性のハートわしづかみってやつだ。」

「…いっときますけど…シナリオですから!!」

 役と役者を 混同しないでくれ!

「…おまえが帝なら…無理やり 出雲から 連れ出したり あ~んなことやこ~んなこと 
絶対しない!…って 言い切れるか?」

「…そろそろ 撮影が始まります。
影から 見学させていただきましょうか…。」


「…た、頼むから 否定してくれ…!形だけでも!!」

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『出雲物語 終章』(side:政親)【絶えずの炎 №57】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 終章』(side:政親)【絶えずの炎 №57】


「…この…琵琶…が…?」

「はい…13年前…夏の終わり この浜辺に流れ着きました女性の体に しかと結ばれ…」

 玉藻を連れて 海路はるばるやってきた石見の国、隠岐の島

 隠岐の島の寺の住職が しんみりとかたる。

「波に削れて 飾りは すっかりはげおちていても 逸品だとわかりましたので…それなりの
 ご身分のお方に違いない…きっと いつか その行方を尋ねくるお方もおられる…と」

 無縁仏としてひとまとめに埋葬はせず…
 きちんと『琵琶信女』と戒名をつけた墓を造ってくださっていた。

「かたじけない…ご坊…そなたの心遣い まことに尊い。心からお礼申し上げる…!」

「そ、そのような!帝!お、恐れ多うございまする!」
 
 玉藻は
 震える手で 琵琶を握り締めている。

「これが…まことに…お母様の…?」

「間違いはないよ。ごらん。胴の下に焼印で紋が入っている。」

「…はい…。」

 おそるおそる
 バチをとって 玉藻は弦を弾いた

 …かと思うと すぐにやめてしまった。

「…?どうしたのだ…?」

「なにやら…響きが…」

「長く海中にあったのです。多少のゆがみがあっても…」

「いえ!そのような 響きの違いではなく!」

 さっと 玉藻は琵琶の空洞を覗き込む。
 ひっくり返したり 振ってみたり している。

「…中に…何か…。」 

 空洞から手を入れようとする。

「待て!玉藻!」
 ばっと その手を抑える。

「また 何かいたらどうする!」

「そのとおりです。それは、私の役目。」

「…千早殿!」

 先日の除目で正式に貴族の仲間入りをし
 私たちのそば近くで仕える蔵人頭の役職を担うことになった八雲千早。

 その彼が すすっと 寄ってきて玉藻から琵琶を取り上げた。

「私が検分いたます。しばし お待ちを…」
 
 言うが早いか ごそごそと 琵琶の内部を手で探る。

「…ん?」

「何かいるのか!?」

「あ、あぶないなら すぐ手を抜いて!」

「いえ。…『ある』のですが…固く 貼り付けられていて…」

 苦労しながら彼は 茶色く平べったいものを取り出した。

「これが…胴の裏に にかわで 貼り付けられていました。」

「なんだ…これは?」

「油紙…ですね。水を通さぬようにしたのでしょう。…紙が封じてあるようです。」

 陽にすかしながら 答える彼の声に 玉藻がびくっと震えた。

「お、お願い!取り出してください!」

 いいのか?…と 確認する目に
 私がうなずくのを見て すぐ 彼は自分の小刀を出した。

 慎重に 膠の部分をはがし 油紙を破らぬように開く。

 折りたたんだ紙が出てきた

「ま、まさか また あの…」

「ご心配なく 今度は 普通の折り方です。」

 ほっ…
 もう あんな思いは二度としたくない!

 アレ以後
 父上が 毎日 和歌の講義をしに 私の元にこられるようになってしまったし!

 彼が 折りたたんだままの紙を そのまま玉藻に渡す。

 玉藻は 恐る恐る その紙を開いた。

 とたんに
 わっと 泣き伏した。

「玉藻!?」

 あわてて その体を抱きしめる。

 千早が その紙をそっと拾って読み上げた。

「…『波底に わが背の都ぞ あるやらむ 玉藻靡(なび)きて 我を招(よば)はれ』…。」

「それ…は…。」

「『波の底…海の中には きっと 愛する夫が治める都があるのでしょう。
 心ある海藻よ その手をなびかせて、どうか私を 夫の元に届けてください。』
 …間違いなく絹乃様の…。」


「…そ、そのお歌!」

 住職が あわただしく立ち上がった。

「し、しばし お待ちを!」

 御仏の像の前に置かれていた桐の箱を取る。。

 中からは 蒔絵細工の麗しい横笛が出てきた。

「14年前…ここで亡くなられた…都の貴人…の 残されたものです。
 あの凛々しくも麗しいお方が 実は 宗親親王様だったなどとは 恥ずかしながら
 今日まで 存じ上げず…。」

「極秘にしていたのだから 当然だ。御坊のせいではない。」

「…ありがとう存じます…。
 13年前の春のはじめ、あわただしくも 丁重に その貴人のお骨は移されたのですが…。」

「この笛は 宗親様 愛用の品だろうに。なぜ ともに 持ち出さなかったのだろう?」

「それが…持ち出そうと荷造りをしても なぜか また この寺に戻ってくるのです。
 使いの者は 手にもって船に乗ったのですが…一瞬 ぼーっとしたかと思うと 手から消え…
 慌てて引き戻したら この寺にあった…と。」

 …!?

「これは…離れがたい思いがおありなのだろうと…横笛のみは ここに…。」

「…そして そこには 歌も 添えられていたのですね?」

「おお!ご明察でございます!」

 すっと 千早が 口にした言葉に感嘆の声が返ってきた。

 …。

 『和歌の情緒やら、機知に関しては、どう考えても 千早殿のほうが上だ!』
 『そなたも 少しは 文芸にお励みなさい!剣ばかり 振り回してないで!!』

 両親の声が(すごく いやだが)耳の底に とどろいてくる!

 住職が横笛の下から 古ぼけた和紙を取り出した。

「このこと…他に知るものは…」

「絵から抜け出たような 麗しい貴公子…そのおふるまいも優美で 殊に 笛は巧みで…
 島人ばかりでなく 周辺に ゆかしがるものは多々おりまして…みまかられた後も 菩提を
 弔う者は おおうございました…。そのような方には 笛も歌もお見せしましたから…。」

「その中に…男に身をやつされた絹乃内親王様も おられたのか…。」

 胸の中で震える玉藻を抱きしめたまま 厳粛な思いで紙を開く。

  - 玉藻寄れ 妹を靡けよ 妻籠みて 波の底にぞ 都造らむ -

 …っ!

「皆々 このお歌を詠んでは涙して…よほど 愛してらっしゃるお方を 置いてきたのだと…。」

 『玉藻よ、私の妻を連れてきてくれ 大切にそばにおいて ともに波の底に都を築こう』

 お
 伯父上!

「明らかに…このお歌と…相聞…なさって作られた 辞世のお歌…のようですね…。」

「…ああっ…」

 どれほどに ご無念だったことか!

 何一つ 罪など 犯しておられぬのに!

「…うれしゅうございます…。」

 …!?

「…玉藻…様…?」

「これほどに 互いに 愛し合うお二人から 私が生まれた…!」 

 玉藻は
 その横笛をにぎりしめ ほほに当てる。

「私は 我とわが身を 誇りに思います!」

 涙にぬれたその目は 神々しい誇りに満ちていた。
 
「…きっと…お父様とお母様の魂は ここにあられるのでしょう…。」

 玉藻は 琵琶に手を伸ばす。
 
 びーん
 琵琶の弦を 一音 弾いた。 

「お父様やお母様も…お好きな曲だと よろしいのですが…。」 

 改めて奏でだしたその曲は…私の好きな『想夫恋』

 哀しみを帯びた美しい調べは
 高く低く調子を変えつつ 隠岐の海に響く。

 その音に答えるように
 しだいに雲が晴れ 初春の明るい陽射しが 波をきらめかせていた。

                                  ― 『出雲物語』  完 ―


  

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『出雲物語 5章 4(side:楓)』【絶えずの炎 №56】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 5章 4(side:楓)』【絶えずの炎 №56】


「…かくいう次第だ…。」

 都中の貴族たちが勢ぞろいしている 大広間。
 しんと静まり返って しわぶきひとつ聞こえない。

「出雲の方…玉藻殿は、亡き わが伯父上・伯母上 宗親様・絹乃様の忘れ形見。
 ここにあらためて 玉藻殿を 内親王と宣旨する。異議はないな?」


 凛と響く帝のお声に
 全員が 静かに頭を下げる。






「それにしても…驚きました。40以上の方は皆 そろって…『やはり!』という顔で…!」

 披露目の儀式が終わったあと 帝は即 玉藻様と寝所にこもられてしまった。

 上皇様方は 御座所に八雲早雲殿を召されて
 玉藻様が社前に置かれていた日のあれこれを お聞きになられている。

 忙中の閑
 私と兄 そして 千早殿は 内裏の一角で お茶を飲みながら語り合っていた。

「ああ。…実は 皆 最初から 玉藻様が 絹乃様の幼い頃に瓜二つと 気づいていて…
 絹乃様の縁の者ではないかと こそこそ かげで うわさし合ってたとは!」

「知ってて…どうして 誰も おくびにも出さなかったのかしら!?」

「そりゃ…大人の女性に成長してしまったあかつきには どれほどの絶世の美女になるかは
 みんな 身にしみてわかっているから…。」

「…そうなると 絹乃内親王様のみを 唯一無二の妻として、頑として ほかの女性の入内は
 拒まれたという宗親親王様の二の舞…と いうわけですか…。」


「そういうことだ…。容姿だけならともかく…管絃や和歌の才まで 瓜二つ。
 玉藻様がおられては、絶対に わが娘を 省みられることはない…と 悟ったんだな。」

「…だから!性急に 玉藻様を 亡き者に…と!?」

 改めて 怒りがこみあげてくる!

「まあ 犯人はすべて 地方の寺に出家させたし…後見の貴族も処断したし…。
 後宮の女性たちは 全員 退出させて 縁談まで世話したし…。」

 左大臣始め 玉藻様暗殺を謀ったやつらは みな 島に流された…。

「これでもう なんの憂いもない!まこと 出雲の神様のありがたいおはからいだ!」

「…私も もう 用済み…ということですね。」

「千早殿!?」

「そ!そのようなことは!」

「私や父に位を賜るというお話は 玉藻様に うしろだてがほしいための苦肉の策。
 玉藻様の高貴なご出自が明らかになった以上、もはや 必要ないでしょう。」


「いや!帝も!上皇様方も そなたの両親に 深く感謝なさっておられる!」

「ええ!!皆様が お助けして ご立派にお育てくださったから 玉藻様が あれほど…!」

「玉藻様は ご自分で ご自分を 育てたのです!!」

「え?」

「私の両親は…玉藻が 幼い頃から とことん こきつかってきました!
 『おまえを育てるのにかかった金は 働いて返すのだ』と さんざん言い聞かせて!
 管絃も舞いも書も…われらには 仕事の一環!
 覚えさせれば 十分に ひきあう利があったのですよ!」


「し、しかし…きちんと…学問まで…」

「記紀、和歌、漢詩、四書五経…祝詞をあげる神職の身には 必須の教養です!
 私が…教わって…素読するのを…壁越しに聞いていた玉藻が暗唱してしまったのです!」


「「…!」」

 思わず 兄と顔を見合わせる。

 に、人間技じゃない!

「もしも…あの頃…小柄の中の文を見た方があれば、すぐに 宮中の皇太后様の元に
 ご注進が及んだことでしょう!『絹乃様の忘れ形見が ご不幸な境遇におられる』と!」


「千早殿…」

 彼のつらそうな目に…何もいえなくなってしまった。

「…それでも…」

 しばしの静寂のあと 兄が静かに言った。

「それでも 玉藻様には 君がいた。それだけで…玉藻様は、十分 お幸せだったはず…。」

「…え?」

「帝のお輿であろうがなんだろうが 血相変えて取り戻そうと 馬の跡をおってひた走るほど
 大切に慈しんでくれる存在がいたのだ。これほど お幸せなことはない。」

「…っ?!!」 

 真っ青になって 千早殿が立ちあがる。

「お、お兄様…?」

「…し、…知って…」

「蛇の事件で…初めて 君のつくろわない必死な声を聞いたときに…わかったのだ。
 あのときの若者だと…。『玉藻を返せ』…と 何度も何度も のどをからしながら
 叫びつづけていた君の声は 耳に こびりついていたからね…。」

「で、では…な、なぜ…今まで…黙って…」

 そうよ!
 なに 考えてるの!?兄さん!!

 すぐにでも 出雲に帰すなりなんなり!

「ずっと…気になっていたんだ。」

「…え?」

「…いくらなんでも…帝のやり方が ひどすぎると思ったのだよ。権力をたてに 無理に…。
 だが…あれほどに 真摯に思いつめた政親殿を見るのも 初めてだったから…つい 手を
 貸してしまった…。」

「…三条…殿…」 

「夜中にでも 君のあのときの声が響いてくる気がして…跳ね起きたことがたびたある。
 ひどく悪いことをしたのだ…と 自分で自分を責めたものだ。」

 そうだ
 
 やさしい兄なのだ… とことん

「…だから…あの宴で 君だとわかったとき…私は、決めたのだ。
 今度は 君に手を貸そう…後見として そばにあって見守るくらい許そう…と。」

「そんな!も、もし…玉藻様のお心が!」

 玉藻様が 寝言につぶやかれてたのは…この方…!

「もともと 帝が 無理に強いたご縁だ!!3月もたつのに お心を得られなかったのなら
 それは 政親殿の力不足!!…玉藻様さえお望みなら…手を貸してもよいと思った。」

「手を…貸す…?」

「常に命の危険にさらされ…意に添わぬ相手に縛られるような悲しい人生を歩まれるより
 君と二人生きていくのがお幸せというなら…仮死状態にな秘薬など お飲ませして…
 殺されたふうを装い お逃がししてもよい…と 心の片隅で考えていた。」

「…そ!」

 千早殿が息を飲んだ。

「お、お兄様!?」

「…だが…玉藻様が 千早殿を見る眼には すでに恋や愛の気配はない…。違うか?」

「…!」

「…想像だが…」

 兄が言いにくそうに続けた。

「玉藻様が…君を慕っていたのは…まことに『恋』…だったのだろうか?」

「…え…」

「周囲が皆…冷淡で つらくあたる中…唯一 やさしくしてくれた存在…。
 頼りに思うだろうし 慕いもするだろう。
 人は 誰も 一人では 生きていけないのだから。」

「…!」

 がくりと
 千早殿が その場に座りこまれる。

「…私の目には…今の玉藻様は ちゃんと政親殿を 恋しておられるように映るのだが…。
 千早殿は…いかがか?」

 …残酷な質問だ。

 千早殿の唇が震えた。

「映ります…私の目にも…」

 振り絞るような声で つぶやく。

「しょせん…兄にすぎなかった…オレは…」

「千早殿!」

「もしも あのまま 出雲にて 時を重ねていけば 自然に恋に昇華しただろう。
 君は これほど すばらしい男なのだから。」

 兄がやさしく諭す。

「愛する少女が 他の男といるのを見るのがつらい…心情はわかる…。
 出仕を拒んで 出雲に帰りたいなら止めはしない。だが…。」

 一転して 兄の目が険しくなった。

「宗親様と絹乃様が 陥れられたように…人の悪意は いつ どんな形で襲うかわからない」

 ただ
 純粋に愛を貫かれようとしただけ…

 なのに
 理不尽なねたみをかって…!

「常にそばにあって…愛する女性を かげながらお守りする…それも ひとつの愛では?」

 なっ!

「お兄様!ひどい!そんなこと!千早殿には あまりに!」
 
 日々 拷問のようなもの!

「…ええ…。」

 しばしの間の後…
 顔を上げた千早殿の目には 静かな光があった。

「管絃の座に飛び込むような無茶ができるのは 私くらいでしょう…。
 おそばにお仕えします。…生涯…。」


 その微笑には 深い哀しみが秘められてはいたけれど

「私の全てをかけて…!」

 声には ゆるがぬ決意がこめられていた。


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