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「松蓮聖戦」
最終章 絶えずの炎

『出雲物語 終章』(side:政親)【絶えずの炎 №57】

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『出雲物語 終章』(side:政親)【絶えずの炎 №57】


「…この…琵琶…が…?」

「はい…13年前…夏の終わり この浜辺に流れ着きました女性の体に しかと結ばれ…」

 玉藻を連れて 海路はるばるやってきた石見の国、隠岐の島

 隠岐の島の寺の住職が しんみりとかたる。

「波に削れて 飾りは すっかりはげおちていても 逸品だとわかりましたので…それなりの
 ご身分のお方に違いない…きっと いつか その行方を尋ねくるお方もおられる…と」

 無縁仏としてひとまとめに埋葬はせず…
 きちんと『琵琶信女』と戒名をつけた墓を造ってくださっていた。

「かたじけない…ご坊…そなたの心遣い まことに尊い。心からお礼申し上げる…!」

「そ、そのような!帝!お、恐れ多うございまする!」
 
 玉藻は
 震える手で 琵琶を握り締めている。

「これが…まことに…お母様の…?」

「間違いはないよ。ごらん。胴の下に焼印で紋が入っている。」

「…はい…。」

 おそるおそる
 バチをとって 玉藻は弦を弾いた

 …かと思うと すぐにやめてしまった。

「…?どうしたのだ…?」

「なにやら…響きが…」

「長く海中にあったのです。多少のゆがみがあっても…」

「いえ!そのような 響きの違いではなく!」

 さっと 玉藻は琵琶の空洞を覗き込む。
 ひっくり返したり 振ってみたり している。

「…中に…何か…。」 

 空洞から手を入れようとする。

「待て!玉藻!」
 ばっと その手を抑える。

「また 何かいたらどうする!」

「そのとおりです。それは、私の役目。」

「…千早殿!」

 先日の除目で正式に貴族の仲間入りをし
 私たちのそば近くで仕える蔵人頭の役職を担うことになった八雲千早。

 その彼が すすっと 寄ってきて玉藻から琵琶を取り上げた。

「私が検分いたます。しばし お待ちを…」
 
 言うが早いか ごそごそと 琵琶の内部を手で探る。

「…ん?」

「何かいるのか!?」

「あ、あぶないなら すぐ手を抜いて!」

「いえ。…『ある』のですが…固く 貼り付けられていて…」

 苦労しながら彼は 茶色く平べったいものを取り出した。

「これが…胴の裏に にかわで 貼り付けられていました。」

「なんだ…これは?」

「油紙…ですね。水を通さぬようにしたのでしょう。…紙が封じてあるようです。」

 陽にすかしながら 答える彼の声に 玉藻がびくっと震えた。

「お、お願い!取り出してください!」

 いいのか?…と 確認する目に
 私がうなずくのを見て すぐ 彼は自分の小刀を出した。

 慎重に 膠の部分をはがし 油紙を破らぬように開く。

 折りたたんだ紙が出てきた

「ま、まさか また あの…」

「ご心配なく 今度は 普通の折り方です。」

 ほっ…
 もう あんな思いは二度としたくない!

 アレ以後
 父上が 毎日 和歌の講義をしに 私の元にこられるようになってしまったし!

 彼が 折りたたんだままの紙を そのまま玉藻に渡す。

 玉藻は 恐る恐る その紙を開いた。

 とたんに
 わっと 泣き伏した。

「玉藻!?」

 あわてて その体を抱きしめる。

 千早が その紙をそっと拾って読み上げた。

「…『波底に わが背の都ぞ あるやらむ 玉藻靡(なび)きて 我を招(よば)はれ』…。」

「それ…は…。」

「『波の底…海の中には きっと 愛する夫が治める都があるのでしょう。
 心ある海藻よ その手をなびかせて、どうか私を 夫の元に届けてください。』
 …間違いなく絹乃様の…。」


「…そ、そのお歌!」

 住職が あわただしく立ち上がった。

「し、しばし お待ちを!」

 御仏の像の前に置かれていた桐の箱を取る。。

 中からは 蒔絵細工の麗しい横笛が出てきた。

「14年前…ここで亡くなられた…都の貴人…の 残されたものです。
 あの凛々しくも麗しいお方が 実は 宗親親王様だったなどとは 恥ずかしながら
 今日まで 存じ上げず…。」

「極秘にしていたのだから 当然だ。御坊のせいではない。」

「…ありがとう存じます…。
 13年前の春のはじめ、あわただしくも 丁重に その貴人のお骨は移されたのですが…。」

「この笛は 宗親様 愛用の品だろうに。なぜ ともに 持ち出さなかったのだろう?」

「それが…持ち出そうと荷造りをしても なぜか また この寺に戻ってくるのです。
 使いの者は 手にもって船に乗ったのですが…一瞬 ぼーっとしたかと思うと 手から消え…
 慌てて引き戻したら この寺にあった…と。」

 …!?

「これは…離れがたい思いがおありなのだろうと…横笛のみは ここに…。」

「…そして そこには 歌も 添えられていたのですね?」

「おお!ご明察でございます!」

 すっと 千早が 口にした言葉に感嘆の声が返ってきた。

 …。

 『和歌の情緒やら、機知に関しては、どう考えても 千早殿のほうが上だ!』
 『そなたも 少しは 文芸にお励みなさい!剣ばかり 振り回してないで!!』

 両親の声が(すごく いやだが)耳の底に とどろいてくる!

 住職が横笛の下から 古ぼけた和紙を取り出した。

「このこと…他に知るものは…」

「絵から抜け出たような 麗しい貴公子…そのおふるまいも優美で 殊に 笛は巧みで…
 島人ばかりでなく 周辺に ゆかしがるものは多々おりまして…みまかられた後も 菩提を
 弔う者は おおうございました…。そのような方には 笛も歌もお見せしましたから…。」

「その中に…男に身をやつされた絹乃内親王様も おられたのか…。」

 胸の中で震える玉藻を抱きしめたまま 厳粛な思いで紙を開く。

  - 玉藻寄れ 妹を靡けよ 妻籠みて 波の底にぞ 都造らむ -

 …っ!

「皆々 このお歌を詠んでは涙して…よほど 愛してらっしゃるお方を 置いてきたのだと…。」

 『玉藻よ、私の妻を連れてきてくれ 大切にそばにおいて ともに波の底に都を築こう』

 お
 伯父上!

「明らかに…このお歌と…相聞…なさって作られた 辞世のお歌…のようですね…。」

「…ああっ…」

 どれほどに ご無念だったことか!

 何一つ 罪など 犯しておられぬのに!

「…うれしゅうございます…。」

 …!?

「…玉藻…様…?」

「これほどに 互いに 愛し合うお二人から 私が生まれた…!」 

 玉藻は
 その横笛をにぎりしめ ほほに当てる。

「私は 我とわが身を 誇りに思います!」

 涙にぬれたその目は 神々しい誇りに満ちていた。
 
「…きっと…お父様とお母様の魂は ここにあられるのでしょう…。」

 玉藻は 琵琶に手を伸ばす。
 
 びーん
 琵琶の弦を 一音 弾いた。 

「お父様やお母様も…お好きな曲だと よろしいのですが…。」 

 改めて奏でだしたその曲は…私の好きな『想夫恋』

 哀しみを帯びた美しい調べは
 高く低く調子を変えつつ 隠岐の海に響く。

 その音に答えるように
 しだいに雲が晴れ 初春の明るい陽射しが 波をきらめかせていた。

                                  ― 『出雲物語』  完 ―


  


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