珍魚落雁

「スキップ・ビート!」ファンサイト★キョコたんOnly激Love派管理人による2次小説が置いてあります。

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『出雲物語 第5章 3(side:玉藻)』【絶えずの炎 №55】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 第5章 3(side:玉藻)』【絶えずの炎 №55】


「『あなたは 敵でしょうか。味方でしょうか。』」

 …!?

 冒頭
 いきなり そんな挑戦的な書き出しで始まっていた!

「『あの和歌で…私の名を 判じられたお方なら お味方だと信じたい!
 ですが もし…!
 あなたが 宗忠天皇の意を受けて 宗親様の血統を根絶やしにしようと 来られた方なら
 どうか お願いでございます。後生でございます。先を 読まず なんの詮索もなさらず 
 疾く 都にお帰りくださいませ!!』」


「お、お姉さま!」

「お。おいたわしい!その頃には…父は…とっくに 前非を深く悔いておられたのに!」

「…遠く出雲までは 都のしかも かしこきあたりの醜聞など 聞こえません。
 まして…私どもは、皇太子さまは 病死なさったと聞かされておりました!!
 まさか 島流しなど 夢にも…!」


「…尊い血筋に そのような 恥は許されない…。とことん 秘密裏に行われたのだ…。」

「…『ですが…もし…お味方なら…どうか お確かめくださいませ。私の愛する娘は 幸せに
 暮らしているのでしょうか?』」


 周囲の会話は もはや遠い。
 
「『今 わが身には ほとんど力が残っておりませぬ…。
 どれほどに 愛する娘のそばにおりたくとも…
 その行く末を見届けたくとも…もはや…半月と もちますまい…。
 この文が…あなたのお目に触れている 今 私は もはや この世におりませぬ。』」


 手が…震えてくる

「『もしももしも この子が不幸な境遇にいたなら どうか 都に 宮中に 帝の第3皇子の
 ご正室 典子様に 助けをお求めください!
 心やさしい妹なら 必ずや 姪を お見捨ては なさいますまい。』」


「…!お姉さま!」

 皇太后様の悲痛なお声…も かすんでる。

「『半年前…宗仁が激しい腹痛にのたうちまわりながら天に召されたとき、私は悟りました。
すべては 義父の… 宗忠天皇のさしがね!ご子息、宗親様を流しただけでは あきたらず!
何の罪もない孫まで!このままでは おなかにいるこの子まで 殺されるのだと!』」


 こうまで…人を信じられなくなったこの方を 誰が責められるだろう!

「『私は 昨年…師走も末の真夜中 こっそり寺を抜け出しました。』」

 ぐっと 上皇ご夫妻が身を乗り出された。

「『手には、2,3枚の着物、宗親様の小柄。… これだけは どうしても 手放せなかった…
 愛用の琵琶。身に付けたのは、寺の使用人の着物…。
 髪も背の真中あたりで 切って後ろに高くくくり 男になりすませて…。』」


「…!ど、どうりで 必死に探索させても 見つからなかったはず…。」

「あ、姉上の ご聡明さが かえって恨めしゅうございます!」

「『髪も着物も市で金に替え、路銀を手にした私は 丹後の港まで馬を走らせ そこから
海路をめぐって 石見をめざしたのです。ところが…』」


「ど、どうしたと?!」

「『ところが…その船が 暴風雨に遭ったのです。木の葉のようにゆれる船・頭上にくる波。
 もはや沈む…という瀬戸際!人々はおののき 口々にののしりあう…まさに生き地獄!』」


 文を持った手に 思わず汗が浮く。

「『幼子の泣き声、女性の悲鳴…聞いているうちに たまらない思いに胸があふれ…私は
 いつしか 琵琶を奏でておりました。

 最期は心静かに迎えたい。
 愛する琵琶の音を お腹にいる子に聴かせて
 母子ともに 安らかな気持ちで 神の元に参ろう…。そう思ったのです。

 ですが 思いがけないことに

 私が 琵琶を演奏したのが合図だったかのように…風がとまり、雨もやみ 波もしだいに
 穏やかになり…ついには さんさんと日が照りだしました。

 むろん、自然のなすところ。単なる偶然の一致に すぎません。』」


「…偶然では ないのだろう…な。」

「ええ!絹乃お姉さまが 琵琶を奏されると 鶴が庭先に降りて舞を始めたり 虹がかかったり
 不可思議なことが 多々起こりましたもの!」

「『しかし、船に乗り合わせたかたがたは、まるで 私が嵐を鎮めたのだと言わんばかりに
 手を合わせて 拝んできました。たまたま 天気が変わっただけ…と どれほどいっても
 聞き入れてくれません。

 船は、ぼろぼろになって ようやく石見に 着きました。

 乗り合わせていた客の一人…設楽という若者が
 なんとしても 私に お礼をしなくては 気がすまぬといいはってついてきました。

 彼の世話で 私は、すぐ隠岐にいく小船を手配してもらい、島に向かいました。

 三ヶ月前…昨年の霜月
 泣く泣く お別れした いとしい夫に 会える!

 そのときの私の胸は 幸せにはちきれんばかりだったのです。』」


「…ああ…!」

「兄上は…野辺で倒れていた骸が…絹乃様だったと 思い込まされていたから…!」

「『隠岐に着いた時には…すでに…あの方が ご自害なさったあとでした…。

 島のものは、都から流されてきた者の素性も知らず…墓には卒塔婆が一本立ったきりの
 …粗略さ…でも、それすらも…島のかたがたの精一杯のご好意だったそうでございます。』」


「そ、それは!」

「その半月の後には!都に 丁重に御移しして 立派にお寺も!」

 上皇ご夫妻の 悲鳴混じりのお声がかすかに響く。

「『そのとき
 私は すぐにも おあとを追おうとしました!

 でも
 設楽が 私を とめました。

 お腹の中にいる その子まで 道連れにしてはならない…!

 こんこんと いいさとされ

 そうだ 私にはこの子がいる
 私には まだ この子がいてくれる

 ただただ その一念で…私は…生きつづけることにしたのです…。

 彼の父親は 芸人一座の座長だったのです。

 私は その一座の楽人の一人に していただきました。

 設楽も おうちの方も 一座の方も
 それはそれは 皆様が おやさしく 身重の私を気遣ってくださいました。

 貧しくて 身分も高くない…けれど 少しも 曲がったことのないかたがた
 どれほど その一座の皆様のお世話になったことか…言葉に尽くせません!

 それが…
 夏の初め はるばる九州から招かれ

 7日前に子を産んだばかりで
 いささか 肥立ちの悪かった私だけが 留守番をしていた時

 一足早く 襲ってきた台風によって…一座の皆様が…船もろとも…海中に没されたのです。

 その知らせが 私の…よわりかけた心の臓を 突きました…。

 日々…食事が のどをとおらなくなり

 どうやら 神の元に 夫の待つところへ…向かう日が近いのだと…
 自ら 悟るようになりました…。

 正直に申しましょう…
 私は この子を 一緒に…神の元に連れて行こうと思っておりました。

 こんな力ない赤子を ただ一人残していくなど!
 …この先 どんなつらい目に 遭うかわからないのに…!

 今、ここで 私とともに…連れゆこう…と。

 けれど
 おおきく曇りのない眼で 私を見つめ笑う わが娘を見ると

 できなかったのです!私には…!

 わが手で わが娘の命を 絶つことなど!

 でも
 どうすればいいのでしょう

 国司に…私たちの素性を打ち明け
 都から 迎えを…というのは みすみす この子を死の危険にさらすのみ!

 わが息子 わが孫を 死に追いやった この子の祖父は
 きっと 容赦はしないでしょう!宗仁のように 殺されるに決まっています!

 私は…市井の人々の情に懸けます。

 出雲大社の御神様のお力にすがります。

 どうか この子をお救いください!

 私に 力が残っていれば
 道端に座して 琵琶を奏で 小銭を乞いながらでも 海水を汲むのでも なんでもする!

 どんなことをしても この子を慈しんで育てていくのに!

 …出雲の大神様

 私は このあと
 この文を形見の小柄に封印し

 この子を 御前に置きにまいります

 そして 川に身を投じます。

 川は流れて 海にゆき
 海の玉藻は 私を あの方が眠る隠岐にいざなってくれるでしょう。

 出雲の大神様
 残り少ない 命ではありますが
 私は この身を奉ってお祈り申し上げます!

 どうか 私の愛する娘を お守りくださいませ!

 娘よ どうか 幸せに

 身分や立場など どうでもよい。

 そんなもの 少しも人を幸せにしないことを 私はいやというほど 思い知らされました。

 あなたが心から愛し
 あなたをこよなく愛してくださる よきお方とめぐり合われますように

 女として生まれた幸せを かみしめられる人生を 送ることができますように

 私は ずっと あなたを 見守っております。

   - 数ならぬ 身を幣(ぬさ)にぞ 祈るらむ わが愛し子に 幸よ多かれ -

                                              きぬの』」


 …本当に…最期の力をふりしぼったのだろう

 美しいが 弱弱しい筆あとが
 だんだんと 震え…薄れ…崩れゆきつつ 文は終わった

 その…文字…が かすんでいく…。

 胸の中に 熱い塊がこみ上げて せりあがってくる!

「…玉藻…」

 そっと 背中から 政親様が 優しく抱きしめてくださった。
 
「…なんということ…なんと…」

「お…隠岐に 着かれるのが…もっと早くか それとも遅くか…わずかに ずれておれば!」

 上皇様が皇太后様を 抱きしめられて
 お二人ともに 悔し涙にくれておられる。

「私…親に 嫌われたのでは ないのですね…。」

「…ああ!」 

「…いらないから 捨てられたのではなかったのですね…。」

「捨ててもない!大事だから…愛していたから!
 連れて行けず…置いたのだよ!玉藻!」


「…はい…」

 ええ

 ええ!

 信じます

 今なら
 信じられます

 信じることが出来ます

 私は愛されていた やさしく 深く

 真実 愛してもらえていた!

 連れてはいけない…と 思うほどに…!

 愛してくださっていた ちゃんと!

 でも

 でもっ

 ひと目でいい

 お会いしたかった

 お母様!!

 あとからあとから 涙がわきでてとまらない
 政親様は そんな私を ずっと 抱きしめてくださっていた。 


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『出雲物語 第5章 2(side:楓)』 【絶えずの炎 №54】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 第5章 2(side:楓)』 【絶えずの炎 №54】


「『隠岐のありそ』の次の『の』が… 抜けてる?『の』抜き…上下さかさまで…きぬの…!?」

 ぼうぜんとした 帝のお顔

「はい。やまと歌は、五七五七七の三十一文字です。しかし、これは三十字。」
 苦衷を見かねたのか 

 千早殿がこっそり正解をささやいたおかげで

 やっと おわかりになったようだ。

「この四句目が 字足らずになっているのは おかしいだろ?明らかに!」

「そうですよ!しかも、これは、どうみても『の』をつけるほうが 収まりのいい歌です!」

 上皇様・皇太后様が 心底 あきれはてたという風情でお叱りになられてる。

「…あの程度なら 私でもわかるのに…」

 折り方が上下逆にしてある時点で すでに『何かある』ってわかってもよさそうなものよ!

「ま、まぁ…そういう細かい情緒面に関しては 政親殿は昔から 大どかであられたし…」
 
 竹馬の友…の 腐れ縁で 兄が必死にかばう声には まるで力がない。

「ようするに…猪突猛進 直情径行 繊細さに 欠けておられるのよね!」

「か、楓…!」

 玉藻様に対しても そうだった!

 最初のころ

 まだ数え14の幼い方だというのに!

 あまりにも…だったものだから…

 毎夜 帝のお召しがくるたび
 おびえて泣いておられたんだから! 

 それでも 私たちにお気を遣って
 真っ青なお顔で 震えながら 寝所に向かわれるのが なんとも おいたいたしくて…

「そ、そりゃ…帝には 生まれて初めての真剣な恋。多少 余裕がないのも 無理は…。」

「多少どころじゃ…!」

 あのころ!
 どれだけ 玉藻様が!

 控えの場というのも忘れて 思わず大声を出しかけた瞬間

「失礼いたします!!」

 ばたばたばたっと 足音も高く 近習の一人が駆け込んだ。

 がばっと 平伏して奏上する。
 
「帝!例の小柄…!鍛冶職人が 急ぎ申し上げたき仕儀があると!」
 
「通せ!」

 間髪いれず 帝の許しがおりる。

「ん…?」

「小柄…?」

 上皇ご夫妻の不思議そうなお声に
 帝がなにか言われる前に すぐに鍛冶職人がまろびでてきた。

「私に言いたいこととは?」

「…お、恐れながら!この 小柄は どこでどのように お手に入ったのか!
 お教えねがいとうございます!」

 髪にすっかり霜の降りた…70近い 鍛冶職人
 凄腕で宮中の鍛え物は、一手に受けている…名人だ。

「…なぜに そのようなことを聞く?」

「これは…!この小柄は!」

 鍛冶職人の目は涙にぬれ 黒い小柄を持つ手はぶるぶる震えている。

「40年前!わ、わたしが、鍛えたものです!守り刀として!…亡き…宗親親王様の…!」

「なに?!」

「ま、まさか!!」

「馬鹿な!あ、兄上のは、特に高貴なつくりで!表面に瑠璃やら白玉やら…!」

「確かに見ためは、違います!ですが、この刀身!」

 言うが早いか 職人は持っていたやっとこで刀身をひねって 柄から抜き出した。

「ごらんあれ!」

 抜いた刀身の柄に刺さっていたほうの細い部分に 字が彫ってある。

 『宗忠天皇第一子 宗親親王 奉』

 …!?

「こ、こんなっ!」

「あなた!」

 上皇様の涙が ぽとぽとと刀身にうちかかる。
 皇太后様が ご夫君によりそわれ そっとその肩に手をおおきになった。

「…その小柄…!まさか…玉藻の…そばにあった…あの…?!」

「…そうだ…仔細に検分しようとしていたが…手間が省けたな…。」

「いえ!お主上!この小柄には…まだ 仕掛けが残っております!」


「仕掛け…?」

「この小柄の刀と外側…つまり 鞘と柄を よくごろうじくださいませ!」

 そういわれて
 ついに 私たちも たえかねえて おそばに近寄ってのぞきこむ。

「…不釣合いですね…。」

 ぽつっと 兄がつぶやいた。

「刀の見事さと比べて…あまりにも…お粗末過ぎる…漆の一度塗りなど…」

「しかも そうとう 雑で…だから…うちの者も 二束三文の安物だと…」

「装飾もですが、大きさもご覧ください!刀に比べて 格段に大きいのです!」
 
「…いわれてみれば…!」

「鞘と柄だけ売って…安物に入れ替えたとか…。」

「試みたいことがあるのです!お主上!どうか この黒漆 はがさせてくださいませ!」

 周囲の推論など ばっさり無視して職人は まっすぐに帝に訴える。

「許す!すぐに やれ!!」

「はっ!!」

 鍛冶職人は ささっと 腰につけていた道具袋を取り出した
 …ところを見ると…絶対に はがすまで ねばるつもりだったのだろう!

 私たちみんなが
 固唾を飲んで 見守る中
 職人は 慎重な手つきで 漆をはがしていく

「…これだ…!」

 漆の下には ぐるぐる巻かれた糸 それをはずすと油紙
 そして その下側には 紙 それもはずすと…きらびやかな瑠璃や白玉が現れた!

「ま、まちがいない!あ、兄上!…宗親親王様が…お、お大事になさっておられた…!」

「…ええ ええ 見覚えが ございます!…ございますとも…!!」
 
 14年ぶりに現れた豪奢な柄に
 職人が再度 刀身をはめ込み 鞘に納め 改めて 帝に献上する。

 …やはり
 やはり 玉藻様は!

 帝は すぐに 小柄を上皇様にお渡ししながら言われた。

「これだけ 証拠がそろったのです。もはや 貴族たちにも 文句は言えますまい!」

「ああ!改めて…宗親親王様ならびに絹乃内親王様のご遺児 玉藻内親王様として!
 大々的に披露目を いたさねば!!」

「うれしいこと!これでもう すべての憂いが消えました!」

 よかった!
 二度と 玉藻様が 軽んじられることはない!

 どこからも 文句のつけようのない 高貴なお血筋なんだから!

「…失礼ながら…」

 …!?

「…まだ なにか?」

「高貴なお方なら…わが娘を捨てるような行為 許されてよいのですか?」

 う”…!

「そ、それはそれは きっと!な、なにか 深い ご事情が!」

「お聞かせ願えますか?親が子を捨てる…獣にも劣る恐ろしい罪が許せるような
 『深いご事情』を…!」


「そ…!」

 な、なんて いやみな!
 そんなもの 答えられるわけがないじゃない!!

「…私も…知りたい…。」

 …!?

「玉藻!」

 ざっと 帝が立ち上がって 御簾の中に駆け込まれた。

 お起こしした帝のお胸の中
 玉藻様が 思いつめた目で震えておられた。

「本当に…私が…その方の…娘なら…知りたい!」

 そのお目から 白玉のような涙がこぼれていた。

「どうして…置いていかれたのか…!教えてほしいの…!」

「玉藻!」

 帝が おつらそうに抱きしめられる。

「…答えは…ここにあるのではないでしょうか…。」

「…祐規?」 

 兄が 鞘と柄に巻かれていた紙を取り上げた。

「何重にも折っていたので、一見したところではわかりませんでしたが こうして広げると…」

 …文字!!
 文になっていた!

「これは あなた様のものです。玉藻様。どうぞ、お読みください。そうすれば…。」

 もういちど 丁寧に折りたたんで 兄は 文を高く玉藻様に向かって捧げた。

「すべてのなぞが あきらかになるでしょう。」

 息遣いさえ聞こえそうな静寂

 玉藻様は 震えるお手で 兄から 文をお受け取りになった…!

 

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『出雲物語 第5章 1(side:政親)』【絶えずの炎 №53】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 第5章 1(side:政親)』【絶えずの炎 №53】

「それにしても ようございました!出雲の方がご無事で!」

「誠に!よかったよかった!」

 寝所でハラハラしながら 待っていた両親が なみだにくれている。

 御簾の向こう 
 褥の中…私の玉藻は ぐっすり眠っている。

 水滴に濡れそぼって冷え切った体を
 楓達が用意しておいてくれた湯殿で充分温めた後

 薬湯を口移しで飲ませ いくつもの綿衣でくるむようにして 休ませている…。

「犯人もあぶり出せたし!これで 万事 めでたしめでたしだな!」

「ええ!あとは除目の日を待つのみ!」

 父上と母上が 機嫌良く語り合われている。

「…恐れながら…。」

「ま、どうなさいました?千早殿」

「そなたの活躍により 犯人は見つかったのだ。もはや 何の心配も あるまい?」

「いいえ!根が残っている限り 雑草はしつこく生えてくるもの。
 根本原因が変わらぬ以上、蛇は また出てきます!今度は、人々の心に!」


「…え?」

「表には出さぬまでも…『氏素性のしれぬ捨て子を 皇后になど とんでもない!』…と
 人々は思っているのです!この数日…私や父が どれほど 皆様から 冷たく鋭い視線を
 浴びたとお思いですか?」


「…そ、そのようなもの…ねじふせてくれる!」

「私たちがついております!出雲の方や 八雲どの達に 辛い思いなど!」

「失礼ながら…やりばなく ねじれた不満は 思わぬ時に 思わぬ方向に出るのです!」

 恐れげもなく 千早がいいつのる。

「人にはそれぞれ生まれ持った分というものがございます。どれほど愛らしく才長けていても、
 …玉藻は…しょせん、親なし子。出雲大社の巫女を続けるのが、似合いかと…。」


「千早殿!」

「わ、私は 絶対イヤです!出雲の方を 手放すのは!」

 …。

「政親!どうして さっきから 黙っているのです!?なんとか言っておくれ!!」

「…母上…。」

「え?」

「最初から…どうにも 不思議でならなかったのです。」

「?なにが…です?」

「なにゆえ、母上は 玉藻を…すぐに お認めくださったのですか?…お父上も…。」

「え?」

「…そ、それは…そなたが 是非に…と。」

「私が可愛いから…お許しくださったのだ…初めは そう思っておりました…。ですが…。」

 どう考えても異常だった。

 殊に 母上の態度は!

 玉藻に会ったとたんに
 息子の私など 完全にさしおいて
 猫かわいがりといっていいような愛着ぶりで 日々玉藻の元を訪ねておられた。
 
「息子の私などより よほど可愛がっておられるように見えてしかたないのです…。」

 父上も 同様だった。

 お二方は ひとことも「みなしごなど后にはできぬ」とは おっしゃらなかった。

 貴族どもが こぞっていいたてることなど 予測できたろうに!

「父上。母上。今にして思えば…私が 玉藻を引き合わせたとき ひどく驚かれていたのは
 玉藻が あまりに幼すぎる…以外の理由があったのでは ありませんか?」


「「…!!」」

 両親の顔が こわばったのを見て 確信した。

「どなたかに…似ていたのでしょう?玉藻が」

 とたん
 はらはらはらっと 母上が 涙をこぼされた。

「典子!」「母上!?」

「…ええ…ええ…その通りです…。生まれ変わりのように思えたのですよ…!いいえ!
 絶対に生まれ変わったのです!出雲の神様が もう一度引き合わせてくださったのです!
 今度こそ おまえがお守りしろ!と、私に やり直す機会をお授けくださったのですよ!!」

「…え?」

「でなければ…これほどに…お姉様に…絹乃内親王に 似ておいでのはずがありません。
 まさに 生き写し!ご容姿も 性格も 管弦の才も ご聡明さも!こうまでうり二つな訳が!」

「まことに…。私も これこそは 絶対に 出雲の神様が お与えくださった縁。亡き兄上を
 お助けできなかった罪を 償う機会を賜ったのだと…。」

「…し、失礼ながら…いったい…。」

「千早殿…出雲の方は 無実の罪で隠岐の島に流され、非業の死を遂げられた 我が兄
 宗親親王のご正室 絹乃内親王様に 生き写しなのだ。」

「…は!?」

「絹乃様は 私の姉なのです。それは お優しく素晴らしいお方で!
 私は 心より お慕いしておりました!」

「…なぜ そのことを 私に…」

「絹乃内親王様は…武庫の野辺で 誰にも看取られぬまま 御髪の一筋も残さず 独り寂しく
 みまかられたのだ…。」

「そのような ご不幸なお方に似ていると言われて 良い気持ちは なさいませんでしょう?」

「その…武庫の野辺で倒れてた女性は 真実 絹乃内親王様だったのでしょうか…。」

「え!?」

「で、でも!確かに 盗人は 髪の長い女の骸から 紋入りの着物を…!」

「長い髪の女性などいくらでもおります。着物など…もらうことも 買うこともできます!」

「…!」

「千早!そなたの父が 玉藻を拝殿前で見つけたのは いつだ!?」

「じゅ…13年前の…夏で…。」

「父上!宗親伯父上が 流されたのは!?」

「14年前…秋…霜月…。」

「お別れになられた…その時 お子を身ごもったとすれば…計算は合います!」

 あの夢の中…!
 離れがたく抱き合われていたお二人!

 もしも あのときに 新たな命が授かっていたとするなら…!

「し、しかし…そ、そのような ご立派なお方なら!娘を捨てたりなぞ…!」

「…ああ。そのへんだけが どうしても…わからない。」

 あと 一押し!
 確証を得るための 何かが足りない!

「…千早殿…。」

 母上が うめくようなお声を出した。完全に血相が変わっておられる!

「…は?」

「玉藻殿の横に添えられていたという和歌…紙は!?実物は ないのですか!?」

「は…はい。こ、ここ…に…。」

 千早が あわてて首から下げていた守り袋を外す。
 絹地に 美しく梅の刺繍をしたもので 守り札が入っているようだ。

「これも 玉藻の宝物で…大事にしていたのですが…。
 あまりにも…急すぎるお召しで持ち出すいとまもなく…。」


 う”っ

 き、気のせいだろうか

 両親の目が なにやら 冷たく感じる!

「み、見せてくれ!」

 どうにか 威厳をとりつくろいながら 袋を開ける。

 守り札と共に 雅やかに折りたたまれた和紙が出てきた。

「…まあ!」

 母上が ひったくるように その紙をとる。

「こ、この折り方!最初から こうだったのですか!?」

「…?は、はい。職務上…我が家の者は 折り細工は なれておりまして…
 変わった折り方だと おもしろがって そのまま 再現したそうでして…。」


「…いえ…お、折り方だけでは…貴族の女達なら…この程度の…心得…あるかも…。」

 母上が必死に我と我が身に 言い聞かせるように 文を見つめている。

 開いてみたいが…開くのが恐ろしい…という風情で…。

 だが

 やがて

 折りが崩れないように ゆっくりと母上は紙を開いていった。

 現れた文字を 目にした瞬間 母上は固まってしまった。

 袖の中に 顔を埋めて よよと泣き伏した。

「…お…お姉様っっ!!!」

 父上が あわてて その紙をのぞく。

「…確かに…!この…麗しい筆遣い…見覚えがあるっ!」

「し、しかし…たまたま 字が似てるとか…手本にしたとか…。」

「この…折り方だと…上下が逆さまなのですよ…。」

「は!?」

「折りにも天地がある。本来なら 字は こう書かねばならんのだ。」

 父上が 紙の上下を逆さまにしてみせる。

「絹乃様は…ちゃんと 名を記しておられた…。千早殿に 和歌を聞かされた時点で
 気づいても よかったのに!」

「私たち…なんと おろかだったのでしょう!」

「え…え?」

 千早が 訳が分からないという顔で紙を見つめる。

 恥ずかしながら…私も同感だ。
 和歌が一首かいてあるだけで 名前などどこにも…。

「千早殿 この歌の本歌は?」

「は!『うつせみの 命を惜しみ 波に濡れ いらごの島の 玉藻刈り食む』…です。」

「この歌を よく ご覧なさい。妙なところが ありはしませんか?」

 言われて
 思わず 千早と二人して 紙をのぞきこむ。

 ― うつせみの 命を惜しみ 波に濡れ 隠岐のありそ(荒磯) 玉藻刈り食む ―

 …?

 四句目が 入れ替わっただけだ…が?

 はぁぁぁ~。

 父上と母上の溜息が重なった。

「男の子は 丈夫なのが一番だと 武芸ばかりさせたのが 悪かったのだろうか…。」

「もう少し 和歌の勉強も させておくべきでしたわねぇ…。」

 そ
 そんなこと 

 今更 言われても!

 必死で紙をにらむが

 この中の どこに
 『絹乃』様の お名前があるのか まったくわからない!

「…わかるか…?」

 恥を忍んで 千早に聞く。

 ところが
 千早は 指を折りながら 何事か口の中でつぶやいていたかと思うと。

「ああ!なるほど!」

 ぽんと 膝をうった。

「しかし…ずいぶん手の込んだことを!こうまでして 秘さねばならなかったのですか!?」

「そうとも。なにしろ 我が子は殺されたと思いこんでの逃避行だ。」

「お名前を明らかにしたら ご自分もこの娘も 命がないと思い詰められていたのでしょう!」

 一気に盛り上がる三人の会話に ぽつねんと一人とりのこされてしまう。

「あ。あの…?」

「ですが 機転の利く方ですね!古歌にことよせて よく こんな暗号を!」

「ええ!そりゃもう お姉様は 昔から ご聡明で!」

「あらゆる歌集 隅から隅まで そらんじておられたからな!」

 …。

 どうしよう…。

 私だけが わからない!

 いったい この和歌のどこに 書いてあるんだ!?

 『絹乃』…と!!



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『出雲物語 第4章 4(side:祐規)』【絶えずの炎 №52】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 第4章 4(side:祐規)』【絶えずの炎 №52】


「見張りは『決してみおとしはない!どなたも 寝所から出なかった』と申しております!」

 凍り付いた場に 楓の涙混じりの声が響く。

 瞬時に帝が 動かれた。

 飛ぶような勢いで寝所に向かわれる。

 急いで後を追いながら 確認する。

「…も、もしかして…!」

「抜け道だ!」

 やはり!
 帝一族しか知らない秘密…。

 臣籍に降りた父が
 一時だけ 帝だったことがあるので

 私も その存在は知っている。

 楓は
 物心ついたときには
 すでに父は 単なる貴族、三条氏にすぎなかったから

 そんなものあることさえ 知らぬのは、無理もない。

「心当たりがあるのか!?」

 いつのまにか おいかけてきた千早殿が 必死な声で問いかけてくる。

 それには応えず、帝は寝所にかけこみ。

 掛け軸を 勢いよくはがす。
 定められた手順で操作して隠し階段を出現させた。

「…これは!」

「…非常時の際の脱出口だ!玉藻が来てすぐに 教えておいた!」

「お兄様!」

 やっと追いついてきた楓が 息を切らしながら叫ぶ声に 指示を返す。

「松明の用意を!それと湯殿の湯を沸かしておけ!大量に!」

 子どもの頃 この道を 探検したことがある。

「足場が悪くて 危険な道です!どうか 帝は ここで…」

 「お待ちください」という前に 帝は すでに階段を下りて行かれる!
 
 千早殿も 即 後に 続いていく!

「お兄様!松明です!お湯も がんがんわかしておきます!ですから!」

「大丈夫!必ず お連れして戻るから!」

 蒼白になった妹の肩を ぽんぽんとたたいて 俺も階段を下りていった。

「…よく…こんな道 教えましたね。しかも、最初の頃に…などと。
 玉藻…様が 逃げると 危惧なさらなかったのですか?」


 道を ひた走りながら 千早殿が皮肉っぽく言う。

「寝所で、ほんの一瞬でも 私が玉藻を離すとでも?」

「…っ!」

 さ、
 さらっと とんでもないことを!

 さすがの千早殿も絶句した。

「もう…すっかり 身も心も 私になびいてくれたと思ったのに…現に 昨夜は あんなに…。」

 なにやら ぶつぶつ言う声は 聞かなかったことにした!

 精神衛生上 とても 良くない内容にしか 思えなかったので!

「見つけたら!もう!二度と私のそばから 離さないからな!一日中!」

 言うが早いか 韋駄天のような速度で 駆け抜けていく。

「う、嘘だろ?なんで あんなに早いんだ!?帝なんて 一日中座りっぱなしの…!」

「…私たちは 幼い頃は、まるで皇位継承権から 遠かったんでね…けっこう 野山を駈けて
 わんぱくな子ども時代を過ごしたんだよ。」

 なんせ
 当時の皇太子 宗親親王様は
 御血筋も 頭脳も 人望も すべて兼ね備えられた素晴らしいお方だったし

 そのご正妻 絹乃内親王様も また宮中の牡丹…とまで形容された方で
 お美しく聡明な上に 謙虚でお優しいお人柄で たいそう人気が高かった。

 その方との間には 皇太孫 宗仁親王様もおられたから

 正当な皇統は、脈々とつながれており
 政親殿も 私も 完全に傍流の親王…まったく顧みられることはなかったのだ。

 14年前…
 私たちの祖父…当時の帝である 宗忠様さえ…

 あのような愚かな疑心暗鬼に とりつかれさえなさらなければ!

「玉藻!!」

 どれほど走っただろう

 足が次第に いたくなってきたころ

 お主上の悲痛な叫び声が 前方から響いてきた。

 …!

 ダッと 千早殿が 俺を追い抜いていく。

「玉藻!」

「しっかりするのだ!玉藻!」

 ようよう坑道の出口にたどり着いた。

 出口には 重い扉を仕込んであり 厳重に鍵をかけてある。

 その扉の前に 倒れているのは 玉藻様!

「…息はある…!」

「すぐ…連れ帰ろう!」

 帝が ご自分の着物を玉藻様に巻き付けて さっと抱き上げられた。

「この扉の…鍵の場所までは お教えしてなかったのですね!」

「ああ…。」

 玉藻様のお手は 傷だらけだ。

 きっと なんとかして 扉を破ろうとなさったのだろう。

「…この扉を突破されてたら…高雄の山です。…見つけるのは 至難の業だったでしょうね!」

「言わないでくれ…背筋が寒くて仕方がないんだから!」

「…なるほど。ご用心のいいことだ。
 あえて、最後の関門だけは 秘密にしてらしたとは…。」


 千早殿の言葉に 重い沈黙が 返ってきた。

 …まさか…

「み、帝…ま、まさか…と 思います…が…。」

「ご自分でも うっかり忘れてただけ…なんてことは…。」

「…さあ!急ごう!玉藻の体が心配だ!」

 図星かっっっ!!!
 
 心の中で 千早殿と 声がぴったり合わさるのを ひしひしと感した!
 

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『出雲物語 第4章 3(side:玉藻)』【絶えずの炎 №51】 

最終章 絶えずの炎

『出雲物語 第4章 3(side:玉藻)』【絶えずの炎 №51】



「よいな。玉藻!決して この寝所から 外に出てはならぬ!」

 政務が始まる時間ぎりぎりまで 私を抱きしめてくださっていた帝は 何度も念を押された。

「警護の者には 複数で交代で張り番を させている。ここなら 大丈夫だ!」

「…はい…。」 

ひしと抱きしめてくださるその胸に 素直にもたれて 返事をする。

「調べがすむまで 後宮には戻るな!
この五日間の留守中に なにがしかけてあるか わかったものではない!」


 その口調が ひどく苦々しそうだ。

黙ったままぎゅっとしがみつく私を 帝が強く抱きしめてくださる。

  …ああ、このぬくもり。
  この優しい香り。

  覚えていよう、この体のすみずみまで…!

  最期のその瞬間まで

「…ところで…玉藻…。」

「はい?」

「そなたの…親御殿について…なにか…手がかりになる品とか なかったのか?」

「…は?」

 どうして 唐突に…。
 今の今まで 一度も お尋ねにならなかったのに

「和歌と…真っ黒い古びた小柄が一ふり…。」

「黒くて古びた…か…。では、違うのだろうか…。」

「え?」

「あ、いや!すまぬ!昨夜 妙な夢を見て…。」

 夢?

「ちなみに…その和歌は どんな?」

「は、はぁ…。『うつせみの命を惜しみ波に濡れ 隠岐の荒磯(ありそ)玉藻刈り食む』と…。」

「…『おき』とは…よもや 出雲にある島の『隠岐』か!?流刑地の!」

「…は、はい!」

 ど どうなさったのだろう???

「玉藻!」

「は!?」

「その小柄…!今は どこに…?!」

「は、はい。あの…昨夜…千早…殿が、私を蛇から助けるのに 使ったのが
 それでございました。」


 どうやら わざわざ 出雲から持ち出してくれたらしい。

「…あれか…!」

 すぐに 扇を鳴らして 政親殿は 近習を 御呼び寄せになった。

「昨夜 八雲千早が 蛇を退けたあの小柄…いま どこにある?」

「は。やや、欠けが生じておりましたので 鍛冶職人に 研ぎ直させております。」

「…そうか…戻り次第 即 私のもとに届けよ。子細に検分したいことがある。」

「はっ!」

 …検分…?

「…詳しいことは…よくよく 確かめてから話す。まずは、昨夜の犯人捜しが先だ!」

 …っ!

「政親様…!皆様の反感を 買われるようなことは…!」

「人を殺すのは悪いこと…その程度 子どもでさえ知っておるのだ!
 こんな卑劣な犯人を逃して どうして 政を治められるものか!」


「…は、はい…。」

「私は 危うく…おまえを失うところだったんだ…!!断じて許さぬ!」

「政親様…!」
 
 最後にもう一度 
 私を抱きしめて 熱い口づけをくださったあと 帝は政務に出て行かれた。

「本当に…ご無事で ようございました…玉藻様…!」

 改めて 楓が私の前に手をつく。

「私…何のお役にも立てず…。」

 平伏した肩が震えている…のを 見て 胸が熱くなった。

「ありがとう…楓…。」

 そして ごめんなさい。

 きっと 楓にも 哀しい思いをさせてしまうだろう…。

「少し…頭が重いの…。床の用意をしてもらえる?」

「まあ!大変!すぐに お薬湯のご用意をいたします!!」

 楓や女房達が 大騒ぎして ぱたぱた 動き回ってくれる。
 
「では、私どもは 下がっております。ご用の折りには この鈴をおならしくださいませ。」

「ええ…。ありがとう…。」

 褥の中で…楓達の足音が遠ざかるのを確認した。

 さっと 跳ね起きる。

 寝所の外には 見張りをしてくださってる方々がいる。
 
 静かに 行動しなくては!

 寝所の奥の床の間…掛け軸を そっとめくる。

 一見 真っ白い壁…のすみっこに…釘の頭が出っ張っている。

「もしも 天変地異が起こったりして ここから逃げる必要があった場合は…。」

 帝が教えてくださった いわゆる非常口。

 教わったとおりに 操作する。

 ぐぐぐぐっっ

 床の間の香炉を載せた台が 横に滑り 下に続く階段が現れた。

「御所の周囲の堀の下をくぐって道が掘ってあるから…多少 水滴は落ちるが…
 しっかりしたものらしいよ…私は 一度も 通ったことがないけれどね。」


 帝のお言葉を思い出しながら 階段を下っていく。

 しっかり 内側から 香炉台を 戻しておくのを忘れずに…。

 帝がお帰りになったら わかってしまうのだろうけど
 楓たちや見張り番の方々は 絶対 知らないはずだもの!

 湿った土の壁が どこまでも続く道を ひた走る。

 長い…。

 元からあった坑道と つなげた…というだけはある…!

 出口は どこか 山中に続いてるそうだ。

 …ちょうどいい…。

 そのまま 山の奥深くに分け入って 木の下にでも横たわろう…。

 いずれ、この身は 霜雪に朽ち果てて 樹木の糧になれるだろう。

 ぽたぽたと 天井から したたり落ちる雫が 着物にしみ通ってくる。

 日も差さない暗闇の中…壁に右手を当てながら ひたすら先を進んでいった。

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